「憑かれた女(作品集)」(横溝正史)

吉川晃司主演「探偵・由利麟太郎」、第2話の原作

「憑かれた女(作品集)」(横溝正史)
 角川文庫

ばらばら死体の幻覚を
見るようになったエマ子は、
ついに酒場仲間・みさ子の
血だらけの姿まで
幻視するようになる。
ある夜、謎の外国人に
拉致同然に連れ込まれた
洋館の中で、彼女は
幻覚と同様の、血まみれの
女の死体を発見する…。
「憑かれた女」

吉川晃司主演の「探偵・由利麟太郎」、
第2話の原作が本書の表題作です。
第1話「花髑髏」の原作では、
由利麟太郎はほとんど事件解決に
貢献していないのですが、
本作遺品では逆に
超人的な活躍をしています。
俊介から事件相談を受けたかと思えば、
警察からの情報収集や
関係者の事情聴取、
さらには現場検証を一切行わず、
あっという間に推理を組み立て、
真相を見抜いてしまうのです。
しかも由利・三津木コンビの登場は
展開の中盤以降です。
そのままではおよそテレビドラマ化には
向かない作品なのですが、どのように
アレンジされているのでしょうか。

政府高官の妻・絹子から
相談を持ちかけられた三津木俊介。
彼女にはかつて結婚を約束した
瀬下という相手があり、
その彼は満州で
非業の死を遂げたのだという。
彼女のもとに届いた
白骨化した片腕。
それは瀬下のものらしかった…。
「首吊り船」

由利先生ものと
金田一シリーズとの違いは、
やはりコンビによる活躍と
いえるでしょう。
由利がホームズなら三津木がワトソン。
コンビの良さが
十二分に発揮されているのが
収録第2作の「首吊り船」でしょう。

最初に事件に首を突っ込むのは
三津木です。
しかしタクシーで尾行しようとして
まんまと罠にはまり、
殴られて気を失う情けなさ。
いいのです。
三津木の役割はワトソンなのですから。
中盤以降、由利が登場し、
冷静に、なかば興ざめ気味に
事件を解決していきます。
いいのです。
由利はまさしくホームズなのですから。

原作では三津木は
犯人の尾行・追跡、格闘、情報収集等、
肉体派敏腕記者という
イメージがありますが、
ドラマでは童顔の志尊淳。
今一つキャラクターが一致しませんが、
そこは目をつぶりましょう。
なにせ戦前作品を
映像化するのですから、
かなりの改変はやむを得ません。

帝都座で一番人気の演目は、
世間を賑わしていた
紳士強盗を模した探偵劇
「幽霊騎手」であった。
その主役を演じる風間辰之助が、
好意を寄せている
黒岩夫人からの電話に応じて
自宅に駆けつけると、そこには
焼けただれた死体があり…。
「幽霊騎手」

最後の作品だけはノン・シリーズです。
しかし主人公・風間辰之助の
颯爽とした役者ぶりは
由利麟太郎に通じるところがあり、
また幽霊騎手の謎を追う
新聞記者・南条は、
結果的に風間の窮地を救うことから
三津木俊助を彷彿とさせます。
主要人物二人を、
そのまま由利・三津木に
置き換えてもいいのではないかという
シチュエーションなのです。

そうでありながら、
やはり由利・三津木ものだけで
本書が編まれなかったあたりが、
金田一耕助の人気の影に
隠れてしまった影響なのでしょう。
復刊するなら、
「由利・三津木探偵ファイル」として
再編集し、一連のシリーズとして
出版して欲しかったという
思いもあります。

まあ、杉本一文装幀表紙で
復刊されただけでも
良しとするべきでしょうか。
例によってデザインに
マイナー・チェンジが施されています。

マイナー・チェンジ部分は左下

由利・三津木シリーズの次の復刊を
気長に待ちたいと思います。

(2020.7.5)

Anja🤗#helpinghands #solidarity#stays healthy🙏によるPixabayからの画像

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